今回、『ヤマトタケル』を初めてご覧になられるというお客様が多いようですので記録として裏話を一つご紹介させて頂きます。
只今上演中のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の上演時間は休憩を含めて4時間15分ですが、12年前は15分長かったです。このように上演の度にブラッシュアップされてきた訳ですが、初演当時は今より更に40〜50長く昼の部の終演時間は16時近くで二回公演の日は、カーテンコールで序幕の聖宮に登場する役で出ている人は鬘だけ外して、衣裳は着たまま楽屋で待機しておりました。
やがてどんどん刈り込まれていったので今では登場しなくなった場面や衣裳などもあります。勿論、初演の段階で梅原猛先生の原作にありながら大幅にカットされた場面もあります。本編ではサラッと通り過ぎてますがとても細かく描かれております場面が大碓命と小碓命の兄弟が論議を重ね争いに発展してしまう大碓の家の場。三幕の尾張の国の場とそれに続く伊吹山の鬼人たちの場面です。それがお蔵入りになるのが勿体無いと企画されたのが後に私たちの活躍の基盤となる「二十一世紀歌舞伎組」誕生に繋がる渋谷のパルコ劇場での若手公演として上演された「伊吹山のヤマトタケル」です。
私は入門から二年目の18歳だったのですが、この時に初めて倭姫を勤めました。しかし、本編で描かれている場面は逆にサラッと通り過ぎる演出だったので草薙の剣と謎の袋を渡すだけに登場するだけの出番でしたが、もう一役メインとして抜擢して頂いたお役が、この「伊吹山のヤマトタケル」にしか登場しない伊吹山の鬼たちにさらわれる里の女オトクという役でした。
↑里の女オトク(衣裳は走水の海上の船頭のデザインの引用)
この他、早替り無しで大碓命(現・錦之助さん)、小碓命(現・右團次さん)兄弟が論議をするシーン、尾張の国の場面もメインとしてしっかりお芝居になっており、尾張の国のラストの宴の舞は全員による群舞で踊られましたが、こちらは後にスーパー歌舞伎の本編に逆挿入されました(今回は初演通り二人だけの連れ舞に戻されております)。
ただ、世の中の風潮もあり伊吹山の私のオトクの場も含めてこの「伊吹山のヤマトタケル」は今の時代には上演が難しい内容となってしまいました。